2023.01.31

不思議なひとのアリアス

一般絵画教室の1月2月の石膏像はアリアス。
「男ですよね」「女ですよね」と言われることの多い石膏像です。

オリジナル彫像はローマ・カピトリーノ美術館に収蔵されているアリアドネの胸像。
制作年代は古代ローマ時代。
女性像ですね。
 
でもこの首の太さからは女性らしさを感じません。
所説あって、この首の件と髪型の特徴などから、「デュオニソス(男性像)だ」との説があったりしたことからなのか、現代においても「男かも…女かも…」と言われ続ける理由なのでしょうか?
…もやもやします。

そのアリアドネ。
古代ギリシャ世界のクレタの王様のミノスの娘。
当時クレタと対立関係にあったアテネで王子だったテセウスに恋して駆け落ちすることになるのですが、ナクソス島に置き去りにされてしまったそうな。
愛しい初恋の人に裏切られた悲しい物語があったのですね。

微笑んでいるようにも、悲しんでいるようにも見える表情で、何とも言えない憂いのある顔をしている石膏像アリアス。
デッサンの際に描き辛く感じていたのは、この気持ちを読み取れなかったところに理由があったのかと今更ながら思います。

その後、心の傷の癒えたアリアドネはディオニソス(ローマ神話でのバッカスのこと)の妃になったとさ。
幸せになってよかったね。
 
因みに、アリアドネという名は、5世紀の辞典編纂者ヘーシュキオスの記録によると、「アリアグネ」と呼ばれていたとあります。
この名は「いとも尊き(女・女神)」の意味であり、エーゲ海の多くの島で知られている女神の名前のようですので、アリアスは神様ということになります。
でも『アリアス』の名は日本だけのようで、フランス語読み“アリアヌ(Ariane)”のヌがスに間違えられてしまったことで『アリアス』に定着したとのこと…
これでいいのかアリアスさん!
2023.01.30

2023春期講習会のご案内

最初が肝心です!!
良い学習方法の選択は、習得を早くしてくれます。特に最初が肝心!! 良い学習方法、習慣を身につけることにより次の展開も見えてくるはずです。これは美術だけの事ではないと思います。春期講習会では、ベテラン講師がしっかりと寄り添い、いろいろなご相談に乗りたいと思っております。
■ ■ ■ 2023年度のお申込みをすませた方は、春期講習会を無料で受講できます!!■ ■ ■
2023.01.03

おススメ絵具1回目 天然ウルトラマリン(ラピスラズリ)

絵画技法講師の吉川 聡です。

マニアックな話になりますが、いにしえの貴重な顔料のお話をしたいと思います。
「絵具なんか色味次第」と言ったらそれまでですが、オールドマスターと同じ絵具を使う喜びは言葉ではあらわせません。
現代と同じ絵具名でも天然の鉱物や土、植物、虫などから作られています。合成絵具の先祖なのです。
少し色も違い、粒子も粗目です。扱いずらいですが、模写した時に原作と近いイメージになります。

私は、古典顔料を世界の絵具メーカーへ長年製造販売しています。
いろいろ作ってきましたが、一番試していただきたいのが、クサカベ油絵具GEMシリーズのラピスラズリ。

これ、実を言うとチェンニーノ・チェンニーニレシピで精製されたフェルメールブルー(天然ウルトラマリン)なんです。
TV番組でフェルメールブルーが紹介されていますが、一般に売られているラピスラズリの油絵具は簡易精製しかされていません。フェルメールブルーではないのです。
GEMシリーズのラピスラズリは、私が知る限り、現在市販されている世界唯一のフェルメールブルー油絵具だと思います。

一本2万円代は高いと思うかもしれませんが、本当はかなりお買い得。
手慣れた職人でも1kg作るのに、毎日働いて一ヶ月かかる超貴重品です。1kgのフェルメールブルーを作るのに最高級のラピスラズリ顔料を10kg使います。
他のメーカーで油絵具にして頂いたら、一本5~10万はいくと思います。

限定品ではないですが、こちらからの顔料出荷量からして数はそんなに無いと思います。
マニアの方は、聖なる青色をお年玉で是非!!
2023.01.01

明けましておめでとうございます

2023年一般絵画教室の新春のモチーフです!!
1/4(水)の10時から開校いたします。
宜しくお願いいたします。
2022.12.28

不思議なご縁

清野融と伊與田喜代美さんの二人展が開催中です。
伊與田喜代美さんは水墨画家ですが、今回の展示は長田進治様原作の「ロアンとへら鹿のアル」の挿絵(切り絵)を描いており、その絵本原画の展示となります。

伊與田さんとは美術館館長からの紹介で知り合いました。
初顔合わせで話をしていると、なんと娘さんはアトリエヴィーナスに通っていたとのこと!
今は某御菓子メーカーのチーフデザイナーをしているそうで、イギリスで開催された国際コンペでBronze賞を頂いたそうな。
教え子が大活躍しているとやはり嬉しい!!
そんな娘さんのお母様もやはり素晴らしい!!
とても繊細な表現と大胆な構図の切り絵は魅力的です☆
ぜひ原画を観に美術館へ足をお運びください。

●大山現代の美術館
開催期間は2023年3月26日迄。入場無料。

宿坊だった古民家を改装した趣のある建物と空間です。
1階は創作豆腐料理の夢心亭、2階が美術館になっています。

http://www.mushintei.com
2022.12.07

2022-23冬期講習会

早いものですね。冬期講習会のご案内の時期になりました。
東京藝術大学、多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京造形大学、女子美術大学など志望校の傾向を意識したカリキュラムをご用意いたします。
特に入試の近い生徒は、志望校に向けて頑張りましょう!!
もちろん、初心者向きの課題も充実。
多くのご参加をお待ちしております!!
2022.12.01

武蔵野美術大学で特別講義を開いてきました。

絵画技法講師の吉川 聡です。
11/10(木)に絵画組成室で特別講義を開いてきました。

コロナ禍だったので学校関係の特別講義は、3年ぶりです。
最初は3時間予定だったのですが、5時間半かかり2.5時間オーバー。本当にごめんなさい!!
伝統的な手作業を体験してもらおうと思いましたが、体力勝負なので学生の方にはちょっと厳しかったかもしれません。
でも、まじめで優しいムサビ生と教務補助様のお陰で、何とか終えることが出来ました。ありがとうございます。

終盤ではかなり上手くなっていました。最初、なかなか割れなかった石を最後の方ではガンガン割るし。若いってすごい!!
これから何校か回ります。宜しくお願いいたします。
2022.11.30

完全個別カリキュラムの講習会

街中は早くもクリスマスムード。
そして正月飾りだって店頭に並んでいます。
この楽しそうな雰囲気は、
「ふざけんな!まだ1か月あるんじゃい!」
時間が欲しい受験生の声が聞こえてきそうです。

そんな受験生へ、1か月後の講習会の案内を致します☆
それは冬期講習会(12/26~1/6)の後から始まる『入試直前講習会』。

「第一志望の対策だけやりたい!」

「受ける大学全ての対策を平均的にやりたい!」

「高校が終わった後の1時間だけでも制作したい!」

「この課題に集中したい!」

といった受験生の希望に沿った「完全個別カリキュラム」になっています。

受験生には受講カレンダー(画像参照)が配布され、各自が高校の登校日や受験日程などに合わせて入試対策の計画を立て、講師が内容確認して出題するといった流れ。

普段は夜間部に通う高校生ですが、高校の自由登校日は朝からアトリエに通って制作。
入試までに残された時間を無駄なく最大限に活用することができる講習会です!

秋までに積み重ねてきた基礎表現に、傾向と対策を重ねて最終仕上げをする最重要な期間であり、更に受験生は入試直前の研ぎ澄まされた感覚の中で制作するので、一気にレベルアップする時期でもあります。

合格をもぎ取ろう! 
頑張れ受験生!
2022.10.25

一般教室 11.12月のモチーフはローマ皇帝

カエサル・プブリウス・セプティミウス・ゲタ・アウグストゥス
噛まずに読むのが大変な名前です。
生きていたのは189年3月7日~211年12月26日。

「小太りだし、なで肩だし、丸顔だし、毬栗頭みたいだし、眉毛繋がっているし…」と、受験生の頃の私には魅力を感じず描く気が湧かない石膏像でした。
今回のモチーフはゲタです。

こんなゲタさん、実は大変な生涯だったのですね。
父親はセウェルス朝の初代君主セプティミウス・セウェルス。
その皇帝である父亡き後、兄のカラカラと共に共同皇帝となったゲタですが、二人の仲はとても悪く、互いを憎み忌み嫌うような関係だったそうです。
それを案じていた母のユリア・ドムナは仲裁のため奔走していましたが、用意した和解の場でゲタ帝はカラカラ帝の手の者に刺殺されてしまったとのこと…
戦乱の時代にはよくあるお話ですが、お母さんの気持ちを考えると、なんとも切ないですね。

更にカラカラ帝は殺害のみならず、ゲタの姿が刻まれた彫像や絵画を徹底的に消し去り(写真③)、ゲタに関わりのあった高官、近衛兵、友人など2万人に近い人々を粛清したといわれています。

残忍の塊のような顔に作られたカラカラ帝(写真②)と、人の良さそうな顔に作られたゲタ帝(写真①)を見比べると、彫刻家は歴史や人なりまでも作っていることに気付かされます。

そんなゲタさん、実際に描いてみると綺麗で優しい曲面で作られた、印象の合わせやすい石膏像ですので、愛情を持って描いてあげてくださいね。

ゲタのオリジナル彫刻は、ルーブル美術館に収蔵されています。


※一般教室では新規加入者が多い為、今月から静物モチーフのセットを増やします☆
2022.09.29

紀元前の大先生

2か月毎に2体づつセットされる一般教室の石膏像ですが、先月のブログで『笛を吹く女』を紹介しました。

今月のブログではもう一方の石膏像を紹介します。

名前はマルクス・トゥッリウス・キケロ(Marcus Tullius Cicero)~ラテン語です。
石膏像での名前は『シセロ』~英語読みですね。

紀元前106年1月3日に生まれ紀元前43年12月7日に死没。
政治家であり、弁護士であり、哲学者であり、文筆家でもあります。

数々の書籍は、後世のヨーロッパの知識人達に絶大な影響を与えていたり、14世紀イタリアではラテン文学における必読の書とされていたり、またフランスではフランス革命へと向かう、啓蒙主義、民主主義、共和制といった流れの中で大きな影響をもたらしていたり…
そして現代であっても高く評価されていることから、数々の書籍に触れることができます。

そんな哲学者で文筆家のキケロさん、沢山の著書の中に沢山の名言があります。

「始まりは、どんなものでも小さい。」

「今日を楽しんだ人は明日が待ち遠しくなる。」

「人間のやることなどほとんどが間違っている。しかし、間違いを間違いのまま放置している人を愚者という。」

「普段から嘘をついている人は何を言っても誰からも信用されなくなる。」

「厳しすぎる規則というものは人間に害しか及ぼさない。」

「思ったことをしゃべっていてはいけない。よく考えてから、物をしゃべるべきだ。」

「自分が知らないことがあることを告白するのは恥じることではない。」

「どれほどたくさんの知識を頭に詰め込んだとしても使わないのなら意味がないどころか重たいだけだ。」
 
「感謝の心は最大の美徳のみならず あらゆる他の美徳の両親なり。」

「命があるかぎり、そこには希望がある。」

「勇気がなければどれほどの知識があろうと賢者にはなれない。」

「最も大切なのは大胆さ 次に必要なのも大胆さ その次に必要なものといえばやはり大胆さだろう。」

「第2の天性は習慣によって作られる。」

「幸福な生活をおくるには心の平和を保つ必要がある。」


なかなか凡人にはあたりまえのことが、あたりまえに出来ないものですよね。
どの言葉も心に刺さります。


因みに写真左の石膏像シセロはフランスの図書館(パリ・マザラン図書館収蔵)に原型の彫刻が収蔵されています。
さすが大先生、いろんなタイプの彫刻になっていますね。